卒業式の日に言われた言葉。

 私は無関係だったのだが、本日は大学の卒業式があった。私が数年前に大学を卒業したときに言われた最も心に残っている言葉は、別の研究室の友人の一言だった。彼は、「俺が四年間で卒業するとは思わなかったでしょ」と言った。私が正直に「思わなかった」と答えたら彼は嬉しそうに笑った。

 彼は入学したときに「俺は私立は全部落ちたけどここの大学(国立)だけは受かったんだ」と自慢していた。授業にはすぐについていけなくなり、レポートは他人のものを写し、試験はカンニングでしのいだ。だから、私は彼は絶対に留年するものと思っていた。私の大学を四年間で卒業できた人は、その年は66.3%だった。私の学科はほかの学科よりも難しかったので、だいたい四割が留年したはずである。けれど、彼は四年間で卒業し、就職も果たした。

 私は、彼のような生き方もあるのだなと、そのとき思った。彼の戦略が邪道であるとは思えなかった。「単位をとる」ということに関しては非常に熱心だったからだ。そして、彼は「馬鹿だ」と思われることを厭わなかった。人当たりが非常によかった。彼は勉強をして単位をとっていたのではなく、コミュニケーション能力で単位をとっていた。彼の能力を否定する気にはなれなかった。

 もし彼が勉強しているふりだけして陰でこそこそとレポートを写していたとしたら、私は邪道だと思ったかもしれない。けれど、彼は堂々とレポートを写した。その潔さを非難する気にはなれなかった。彼はまっすぐに実利をとりにいったのだ。彼が勉強をしているふりをしていたら、誰も手を差し伸べようとはしなかったことと思う。

 今、周りを見ると、体裁だけをとり繕ってほとんど実利をとらない人が多い気がする。むしろ、全力で「私は馬鹿です」と宣言して実利をとりにいってくれた方が好感が持てる。ときと場合によるとは思うが、だいたいの場面で私はそう感じる。