英語と日本語は周波数が違うのかということに関する話。

 題名の問いに対する結論を先に書いておくと「分からない」ということになる。

 しばしば、「英語と日本語では使っている周波数が違うからリスニングが難しい」という話を聞く。下記の記事にもそのことについて書かれている。

同書では各国の言語によって音声の主音域(パスバンド)が違うとし、日本語では1500ヘルツ以下だが、英語では2000ヘルツ以上だとしている。それが本当なら、日本語の聴き取り能力と英語の聴き取り能力では対応する音声周波数がまったく異なることになる。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/nba/20081105/176311/

 これは私が小学生(中学生?)のころからあった話だと記憶している。二十年くらい前の朝日新聞の一面の左の方にこの話が出ていたような気がする。私の記憶違いかもしれないが、とにかく私が音声の世界に入る前からある話ではある。

 この話題を誰かと真面目に語り合ったことはないのだが、そもそも「音声の主音域」という概念を定義するのが難しいのである。そういう言葉があるとかないとかいう言葉尻の問題ではなく、何をもって「その言語で使う帯域」とするかが難しいのだ。強いていえば、同様の概念を研究したのは電話の開発者たちである。「少なくともこれくらいの周波数帯域があれば会話が聞きとれる」ということを電話の開発者たちは試行錯誤を繰り返して研究し、結局、「300Hzから3400Hz」を電話に使用する帯域とした。私の知っている限り、これでどの言語の人もつつがなく会話をすることができている。

 そして、私の耳には、これよりも狭くすると日本語が聞きとりづらくなる。これはきちんとした実験をしたわけではないのだが、だいたい2000Hz以上をカットしてしまって低い方だけを聞くと人名地名などの固有名詞は聞きとりづらくなる(固有名詞以外はほぼ分かるのだが)。つまり、私の耳は日本語を聞くときも2000Hzよりも高いところも参考にして聞いているようだ。

 また、電話帯域の上限が3400Hzなので、どの国の人も電話ではそこまでしか使えないわけだが、通話に当たって不便さを感じているようには見受けられない。

 それから、音響音声(工)学のどの専門書を読んでも、英語と日本語を別物としては扱っていない。英語の場合も日本語の場合も、同様の計算方法が用いられる(専門書が間違っている可能性もあるが)。

 というここまでの話を総合してしまうと、「日本語と英語の周波数は違う」が嘘のようにも思えてしまうのだが、話はそう簡単でもない。

 一般に、人間が耳で何をどう知覚しているのかということはほとんど分かっていない。いや、耳の構造などはかなりのところまで分かっているが、それをどのように脳が処理しているのかという部分はほとんど未知である。分かっている部分はまだわずかだ。未だにどうして日本人がLとRの発音を区別することができないのかということすら分かっていない。また、子音の聞き分け方についてはまだかなり議論の余地が残されている(母音についてはほぼ決着がついていると思っている人が大半である)。

 そんな状況なので、「日本語と英語の周波数の違い」を議論するような段階には来ていないし、(議論するだけならいいが)結論を出すには早すぎる。妥当だとも間違っているともいえない。

 話が二転三転してしまって申し訳ないが、だからといって、上記記事の英語の学習法が否定されてしまうわけでもない。もしかしたら(理論は間違っているかもしれないが)学習法は外していないかもしれない。説明が間違っていてもやっていることには効果があったということは、民間療法にはよくあることである。もちろん、効果のない民間療法もある。

 とにかく、理論的な部分も実践方法の部分も、今のところ妥当かどうかは分からない。