第四回エンターテイメントと認知科学シンポジウムに行ってきた。

 本日の日記は一ヶ月以上前のシンポジウムの話である。電気通信大学に「エンターテイメントと認知科学研究ステーション」という組織があり、そこが主催しているシンポジウムのことである。

 3月22日と23日に第四回(つまり四年目)が開かれ、私は22日の発表を聴いてきた。このシンポジウムはこれまである種のボードゲーム(将棋・囲碁・トランプの大貧民)の話題と広告の認知科学の話題が多かったのだが、この日の主題は「FPS (First Person Shooting)」の一種である「Warsow」というネット対戦型ゲームだった。ほかにも将棋や公告などの話題があったのだが、本日の日記ではこの「Warsow」について語る。

 さて、「FPS」とはなんであるかという話である。私も当日になるまで知らず、その後も詳しくは調べていないのだが、およそ次のようなものであるらしい。まず大きな枠でいえば、対戦型のゲームである。ネットワークを介して自宅でプレイしたり、大会でプレイしたりするらしい。サーバ内にはなんらかのマップが用意されており、そこでプレイヤーが動き回って互いに銃を撃ち合うのであるが(このあたりが「Shooting」)、視点は上からでも横からでもなく、プレイヤーの視点からとなる(このあたりが「First Person」「一人称」)。つまり、画面下部の目の前に自分の持っている銃が見えている状態を想像してもらえればよい。この状態で敵と撃ち合う。

FPS」というのはそういったゲームのジャンルの総称であり、その中の一つのゲームとして「Warsow」という名前のものがあるようである。会場ではまず人間によるエキシビションマッチがおこなわれた。本来、大会などの真剣勝負の場では本人たちに聞こえるようには解説はおこなわれないものなのだが、今回は特別に解説がその場でおこなわれた。ここまでの私の説明では反射神経がものをいいそうな気もしてくると思うが、実物を見ると、どうやらかなり戦略的なゲームであるようだと分かる。その戦略性は囲碁や将棋に通じるものがある。なお、エキシビションの解説で驚いたのだが、マウスとPC本体との一秒あたりのやりとりの速さが変えられなかったために操作に支障をきたして調子が出なかったとのことである。詳しい数値は忘れたが、速さに対する人間の認識精度に驚かされるくらいの数値だった。

 このシンポジウムの主催者は、ゲームの人工知能研究の題材として、「将棋」「囲碁」「大貧民」の次に何を持ってくるかを考えていたようなのだが、ひとまず「FPS」を採り上げたようである。素人としては、こういった反射神経がものをいいそうなゲームでは機械が圧倒的に有利なのではないかと感じてしまったのだが、戦略性や操作の難しさなどの要因により、むしろ機械は弱すぎるそうである。

 エキシビションに対する質疑応答のあと、一件目の発表となった(というか「FPS」に関しては一件しか発表がなかった。いうまでもなく主催者の研究室からの発表である)。とりあえず「FPS」の人工知能プレイヤーを叩き台として作ってみたという感じの発表かと思ったら、その後の「FPS」の人間のプレイヤーたちの反応を聞いてみると結構評判がよかったようである。その発表は、今コンピュータ将棋でそうされているように、人間のゲームのログから人工知能を学習させてみたというものであり、多数あった質問への回答を聞いてみるとまだまだ改善する余地が多々があるようなのだが(これだけの短期間なら多数改善の余地があって当然である)、総じて「これまでの人工知能よりも人間らしい」という評判だった。質疑応答のあとで個人的にオレンジのパーカーの人(この人も強いらしい。聴講者の中にいた)にいろいろと聞いてみたのであるが、「人間の初心者の動きに似ている」とのことだった。このオレンジの人にはいろいろと「Warsow」について教えていただいた。

 なお、私が本当に面白いと思った話は、その後の懇親会で聞けることとなった。ゲーム開発の人が言っていたことなのだが、ゲームAIというのは基本的には今も手作業(俗に「職人芸」といわれている)でおこなわれているのだそうである。ストリートファイター2なども、対com戦になると動きが単調になるのはそのせいのようである。また、私が勝手に連想したのはドラゴンクエスト4のクリフトのザラキ連発だった。そのゲーム開発の人は、ゲームのAIの自動生成(手作業ではない)を日本の大学にがんばってほしいそうである。この分野は西欧諸国に比べると圧倒的に進みが遅いそうである。「ゲーム一つ一つに関してのAI生成は比較的できる。でも、様々なゲームに共通する自動AI生成の枠組みがほしい」とのことである。ここにも切実なニーズがあるのだと、新鮮だった。