「世界最先端研究支援強化プログラム(仮称)」について思うこと。

 2700億円を30の団体に配って技術の革新を起こそうという政府の計画がある。目的の部分は悪いことではない。政府の考えた事例を見ると、どうやら虚学ではなく実学に偏っているようではあるが、それを非難するつもりもない。問題は、2700億円で技術革新が起きるかどうかである。

 私の第一観は「金で革新は起きない」というものである。技術の研究者が金で買えないものが少なくとも二つあるからである。

 一つは「時間」である。技術の研究者はほとんどの場合、雑務に追われている。私の直接の指導教員の教授は二人いるが(助教などをあわせると四人)、例外なく事務仕事に追われていた。政府が想定している研究費に関する資料の作成のほかにも、学内での委員会や学外での学会のとりまとめなどがあったようである。国立の研究所のことは知らないが、似たようなものだろう。これらの事務仕事を金で減らすことはできない。つまり、時間は買えない。でも、技術革新のために最も必要なものは時間である。

 もう一つは「博打に出られる環境」である。技術革新というのは、できるかできないかが分からないからこその技術革新である。特に実学では、あらかじめできると分かっている技術革新というものは存在しない(それは「革新」ではない)。そういうわけで、ギャンブルのできる環境が必要である。分かりやすくいえば、成果が出なくても許される環境である。これも金では買えない。

 もしも政府が本当に技術革新を起こしたいのならば、技術研究者に「無駄にしてもよい暇」を与えることが必要である。それができなければ、今回の2700億円もいつものように「部外者からはなんとなく新しそうに見えるけど知っている人からすれば新しくもなんともない成果」が山のように提出されるだけで終わるだろう。