バイオメトリクスに関する学会で。

 2006年6月23日、東京の工学院大学で「バイオメトリクス」に関する学会が開かれた。とりわけ興味のある学会でもなかったのであるが、後輩を誘った都合上、聴講してきた。印象に残っているのは、技術よりも話題性が先走ってしまっているという話だった。

 バイオメトリクスというのは(おそらくはてなのキーワードに詳しく書かれているとは思うが)、人間がそれぞれ固有に持っている「声」や「指紋」や「指や手のひらの静脈」や「虹彩」などを使って、個人認証をしてみようという技術である。

 私は音声が専門であるので、「声の認証技術」については多少の知識があった。それがどのくらいの知識なのかといえば「銀行などで使ったら誤動作ばかりになる」ということが推測できるくらいの知識である。技術者たちが一生懸命に精度を上げているが、力不足の感は否めない。

 ただし、そのほかの例えば「指の静脈」を用いた認証技術についてはほとんど知識がなかったので、話を聞いていて面白かった。結論としては「まだ実用には至らない」ということだった。

 ところが、実用には至らないその技術は、すでにどこかで実用化されてしまっているらしい。なぜ実用化されてしまっているのかといえば、「話題が先走ったから」のようである。簡単にいえば実用化に至らしめたのはマスコミである。そして、どうやら、学会に参加した先生方も困っているらしい。「まだ駄目」といえば、「まだ」が省かれて「バイオメトリクスは駄目」とマスコミに書かれてしまうし、「大丈夫」とは専門家として言えない状況である*1

 簡単にいえば、バイオメトリクス(生体認証)は、マスコミによって持ち上げられ、マスコミによって落とされようとしている状況である(おそらく、そう簡単には落ちないが)。

 キーワードは「まだ」である。バイオメトリクスは、「まだ」、持ち上げられるべきではなかった技術である。「これから何年もかけて」、それからようやく使えるようになる技術なのである*2

*1:「駄目」とマスコミに書かれると研究費が獲得しづらくなり、技術は衰退する。

*2:ところで、なぜまだ無理なのかという技術的なことに関しては、これから時間をかけて書いていく。