学部四年生の十二月下旬。

 シミュレーションではなく、実環境で実験をした。会議室を一つ借り、そこにマイクロホンを固定し、スピーカーから人間の声を出した。スピーカーを用いたのは、しっかりと位置の計測をするためである。この位置の計測が最も大変だった。マイクロホンの位置が間違っていると、全てが狂うのである。この位置の計測に数時間かかった。

 当然のことながら、事前に収録のデザインをしていた。そのときになってようやく気づいたのが、スピーカーの向き(人間でいえば顔の向き)はこの手法にとってかなり大きなファクターではないかということである。実際かなり大きなファクターだった。

 なお、このときの実験は失敗に終わった。会議室は反射音が強く、一話者ですら音源定位ができなかったのである。その結果が出たのち、「年明けにもう一度実験をしよう」ということになった。

 そして実験の話ではないが、助手(当時)の先生に学会発表をしようと言われたので、学会発表をすることにした。まずは、教授にお伺いを立てなければならないので、教授の部屋に行ったら、最初はNGが出た。そのときはシミュレーションしかできていなかったので、それだけでは駄目だと言われたのである。私一人で教授の部屋に行ったのもまずかったのだろうと考えた助手の先生は、今度は自分自身も教授の部屋におもむいた(私も再び行った)。とりあえず教授のOKが出た。

 その年の年末と翌年の年始は、一生懸命に予稿を書いていた。電子情報通信学会の大会なので、A4が1ページである。