黄色い線の内側と複数形。

 二十歳くらいの頃、アメリカのオタクと文通をしていたことがあり、そのときに「日本語には複数形がないよ」と教えたら、「じゃあ完璧なコミュニケーションができないじゃん」と言われたことがある。そのときは、複数形はあってもなくても同じだと思っていたし、今でも日本人としてはそう思っているのだが、この前初めて複数形の方が意味がはっきりする場面があることに気づいた。

 駅で電車を待っていたときのことである。「黄色い線の内側でお待ちください」というアナウンスが流れた。この「黄色い線の内側」には二通りの解釈があり、多くの人は黄色い線と黄色い線の間という解釈をするはずだが、たまに黄色い線の上という解釈をする人もいる。日本語としては両方とも正解である。

 ここでこの表現を英語に書き直すと"the yellow lines"であり、linesと複数形になっているので間違えようがない。確かに、複数形があった方が意味がはっきりする。アメリカのオタクの彼が言っていたように、複数形も役に立つことがあるようである。