とあるものの取り方。

 先日ブックマークがたくさんついて懲りたので、もう刺激的な大学関連の日記は書かないようにしようと思っていたのだが、この話は聞いたらやはり書きたくなってしまう。友人のそのまた友人の研究室での話である(例によって友人関係は学外にも及ぶので研究室の特定は不可能である)。ブックマークなどせずに、こっそり楽しんでいただけたら幸いである。

 という前置きをしておいて、修士号の取り方である。ただし、理論系の工学に限る。

 まず、目をうつろにする。大学院に入ってから一ヶ月くらいで目をうつろにするとよい。とにかく気を病んでいるようによそおう。次に、とりあえず卒業に足りるように講義をとる。それから、研究にはほとんど手をつけず、研究室にもほとんど顔を出さない。ただし、ゼミなどの必ず出席しなければならない日には出席だけはする。すると、先生から何らかの警告が出るはずである。そこでうつむいて先生の話を聞き、曖昧な受け答えをして、最後に力無く頑張りますと言う。少しずつ研究に手をつけ始めるも、実力を出さずに研究ができないふりをする。それを修士二年の十一月ごろまで続ける。すると、先生から何らかの「とても基準の甘い修了に関する条件」が提示されるはずである。それを簡単にこなすが、表面上はとても苦労しているように見せかける。そして、(学会への参加が修了条件ならば)体裁だけ整えて国内の三月の大会に行く。

 これでほとんど研究をすることなく修士号がとれるはずである。このとき忘れてはならないのは、就職先だけはちゃんと確保しておくことである。就職先が決まっていない場合は、教員側としても留年させやすい。また、鬱っぽくよそおうことも重要である。突っ込んだ質問をさせないためである。研究室によっては相当罵倒されるだろうが、それでも概ね上記のようなストーリーで話が進んでいくことだろう。

 基本的に、就職先が決まっていれば教員は修士号を出さざるを得ないようなので、研究や勉強は修士号取得にはほとんど関係ない。

 とにかく、そういう修士の学生がいたそうである。おそろしい。

 根本的な問題は、就職内定の時期が早すぎることにあると思う。メキシコからの短期留学生(これはうちの研究室に来た人である)の話によれば、メキシコでは卒業後に就職活動をおこなうとのことだった。そちらの方が自然であると思う。もし内定の時期が卒業後であれば、今よりは留年させやすくなる。また、内定の時期が卒業直前であれば、企業側がある程度は研究能力を踏まえて人選をしてくれることだろう。